「先生と私」の22: 前後を忘れるほどの衝動が起こる機会を彼に与えない以上、Kはどうしてもちょっと踏みとどまって自分の過去を振り返らなければならなかったのです。そうすると過去が指し示す道を今までどおり歩かなければならなくなるのです。そのうえ彼には現代人のもたない強情と我慢がありました。私はこの双方の点においてよく彼の心を見抜いていたつもりなのです。上野から帰った晩は、私にとって比較的安静な夜でした。私はKが部屋へ引き上げたあとを追いかけて、彼の机の傍に座り込みました。そうしてとりとめもない世間話をわざと彼にしむけました。彼は迷惑そうでした。私の眼には勝利の色が多少輝いていたでしょう、私の声には確かに得意の響きがあったのです。私はしばらくKと一つ火鉢に手をかざした後、自分の部屋に帰りました。ほかのことにかけては何をしても彼に及ばなかった私も、その時だけは恐るるに足りないという自覚を彼に対してもっていたのです。
私はほどなく穏やかな眠りに落ちました。しかし突然私の名を呼ぶ声で眼を覚ましました。見ると、間の襖が二尺ばかり開いて、そこにKの黒い影が立っています。そうして彼の部屋には宵のとおりまだ灯火がついているのです。急に世界の変わった私は、少しの間、口をきくこともできずに、ぼうっとして、その光景を眺めていました。
(夏目漱石 続く)
訳文:《老师和我之22》:只要不给他产生丧失理智的冲动机会,K无论如何都会稍加停留,回顾自己的过去。那样一来,就不得不和从前一样,沿着过去被指点的道路走下去。而且,他有着现代人所没有的固执和自制力。我觉得我在这两方面彻底看穿了他。从上野回来的那个晚上,对我来说是一个心情比较平静的夜晚。K回自己房间后,我紧随其后跟了进去,在他的桌边坐了下来。接着,我故意和他漫无边际地闲聊起来。他似乎觉得我很麻烦。我的眼睛里多多少少闪耀着胜利的光芒吧,我的话声中确实荡漾着得意的情绪。伸手和K在同一个火盆上烤了一会火后,我回到了自己的房间。在其他任何方面都比不上他的我,只有在此时才感觉到他不足为惧。不久我就坠入了安稳的梦乡,却因为突然听到有人喊我的名字而惊醒了。睁眼一看,我和K房间中间的拉门开了两尺左右,KK色的身影正站在那儿。而且,他的房间和傍晚一样还亮着灯。世界一下子变了,我一时说不出话来,只是呆呆地看着这光景。(夏目漱石
未完待续) (翻译者
施荣涛)