「先生と私」の8:私が疲れてうちへ帰った時、彼の部屋は依然として人気のないように静かでした。私がうちへ入るとまもなく俥の音が聞こえました。今のようにゴム輪のない時分でしたから、がらがらいういやな響きがかなりの距離でも耳に立つのです。俥はやがて門前でとまりました。私が夕飯に呼び出されたのは、それから三十分ばかりたった後のことでしたが、まだ、奥さんとお嬢さんの晴れ着が脱ぎ棄てられたまま、次の部屋を乱雑に彩っていました。二人は遅くなると私たちにすまないというので、飯の支度に間に合うように、急いで帰ってきたのだそうです。しかし奥さんの親切はKと私とにとってほとんど無効も同じことでした。私は食卓に座りながら、言葉を惜しがる人のように、そっけない挨拶ばかりしていました。Kは私よりもなお寡言でした。たまに親子連れで外出した女二人の気分が、また平生よりはすぐれて晴れやかだったので、我々の態度はなおのこと眼につきます。奥さんは私にどうかしたのかとききました。私は少し心持ちが悪いと答えました。実際私は心持ちが悪かったのです。すると今度はお嬢さんがKに同じ問いをかけました。Kは私のように心持ちが悪いとは答えません。ただ口がききたくないからだと言いました。お嬢さんはなぜ口がききたくないのかと追窮しました。私はその時ふと重いたい瞼をあげてKの顔を見ました。私にはKがなんと答えるだろうかという好奇心があったのです。Kの唇は例のように少しふるえていました。それが知らない人から見ると、まるで返事に迷っているとしか思われないのです。お嬢さんは笑いながらまた何かむずかしいことを考えているのだろうと言いました。Kの顔は心持ち薄赤くなりました。(夏目漱石 続く) 訳文:《老师和我之八》:当我走累后回到家时,他的房间依然静得仿佛没有人的气息。我刚进门不久,就传来一阵黄包车轮的响声。因为那时还没有现在这样的橡胶轮胎,所以即使在很远的距离之外也能听到咯噔咯噔的刺耳的响声。不久,黄包车在门前停了下来。我被喊出去吃晚饭是在那以后刚过了三十分钟的时候,太太和小姐出门穿的盛装换了下来还没收拾,胡乱地放在隔壁房间,将那房间装点得色彩缤纷的。两人说如果晚了的话就对不住我们,所以看来她们是为了ー着做饭而急急地回来的。但是对太太的好意,K和我似乎一点也没领情。我坐在饭桌边,惜言如金似地,只是淡淡地打了个招呼。K比我还要沉默寡言。母女俩难得一起出门,心情比平时愉快得多,所以更能注意到我们的态度不对劲。太太问我:怎么啦?我回答说心情不太好。实际上我的心情是不好。接着小姐又问了K同样的问题。K并没有象我那样回答说心情不好,而是说只是不想说话而已。小姐又追问:为什么不想说话呢?这时我突然抬起沉重的眼睑朝K的脸上看去。我有着一种想知道K将如何回答的好奇心。K的嘴角象往常那样稍稍抖动着。这在不熟悉他的人看来,只会觉得他好像是不知如何回答。小姐笑着说:你又在考虑什么难题吧?
K的脸微微泛红了。(夏目漱石 未完待续)(翻译者 施荣涛)
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