「沫雪」:関ヶ原にさしかかると、車窓を雪がかすめ始めた。沫雪と呼ぶ大ぶりの春の雪だ。三月も半ばの東京は暖かな日が続いていたのに、このあたりは季節が後もどりしたようだ。薄手のコートでは京都は寒いかも知れない。その日は彼の家族に初めて会うので、おしゃれをして来たのだった。昭和四十七年のことである。米原を過ぎだ頃だったと思う。化粧室から出て来ると、車窓の景が一変していた。いちめんの田の面から湯気が立ちのぼって、幾すじも縒れあっている。あたり一帯は畦道にひょろりと伸びた木々が植わっていて、その影が濃く淡くゆらめいている。何とも幻想的な情景が広がっていたのである。デッキにひっそり立っている人がいた。ブロンドの髪を後ろに束ねた若い女性だ。ここを過ぎてしまえばこの景色が消える。私もその窓に寄り、息をのんで見入ってしまった。ほんの一、二分だったようにも思えるし、長い間だったような気もする。二人で顔を見合わせた時。心細げな異国の女性と、これから大切な初対面をひかえた私の心が、ふっとほぐれた思いがした。あれから何度も新幹線に乗っているが、あの夢のような場所は二度と通らない。畦木というのだろうか、畦道に並んでいた木々も年々まぼらになり、今はそれがどこだったのかさえ分からなくなってしまった。(西村和子) 《沫雪》 列车开过关之原时,雪花掠过车窗。这种春天的大雪日语叫做沫雪。三月中旬的东京气每天都是暖洋洋的。可是到了这一带,季节仿佛倒退到了冬天似的。到了京都只穿一件薄外套恐怕会冷吧。那是昭和四十七年的事了。我还记得那一天,我将和他的家人初次见面,所以我精心打扮了,乘上了列车。地点应该是刚过米原吧! 我刚从洗手间出来,发现车窗外的景色已焕然一新。田野中雾气升腾,缕缕烟雾交织缠绕。周围的田间小路旁种植着的树木纤细挺拔,树木的影子时浓时淡地摇晃着。展现在眼前的简直是一片梦幻中的场景。这时,我注意到还有一个人静悄悄地站在车门边。那是一位把金发束在脑后的年轻女性。车开过这儿的话,这景色可就见不着了。我这样想着,也走近了那扇车门,屏住呼吸出神地看着景色。那过程想来也就一、二分钟吧,或许更长点吧。“丑媳妇将要见公婆”的我,和那位看上去羞怯不安的异国女性四目相对的一瞬间,我突然觉得心情平静舒畅起来了。打那以后虽然我也多次乘过新干线,但那梦幻般的场景我再也体会不到了,那伫立在田间小路旁的树木也一年比一年稀疏, 现在,那地点究竟在哪儿,连我也弄不清楚了。(翻译者: 施荣涛) |