日中翻訳コンテスト  2020年10

              

 


2020年10月の優秀答案当選者3名: ★小林里香  田中涼子 山下安紀   翻訳努力当選者3名: 藤井佳苗 江川美帆 水野静香 

夏目漱石 「三四郎」の 9:  元来汽車の中で読む了見もないものを、大きな行李に入れそくなったから、片づけるついでに提鞄《さげかばん》の底へ、ほかの二、三冊といっしょにほうり込んでおいたのが、運悪く当選したのである。三四郎はベーコンの二十三ページを開いた。他の本でも読めそうにはない。ましてベーコンなどはむろん読む気にならない。けれども三四郎はうやうやしく二十三ページを開いて、万遍《まんべん》なくページ全体を見回していた。三四郎は二十三ページの前で一応昨夜のおさらいをする気である。元来あの女はなんだろう。あんな女が世の中にいるものだろうか。女というものは、ああおちついて平気でいられるものだろうか。無教育なのだろうか、大胆なのだろうか。それとも無邪気なのだろうか。要するにいけるところまでいってみなかったから、見当がつかない。思いきってもう少しいってみるとよかった。けれども恐ろしい。別れぎわにあなたは度胸のないかただと言われた時には、びっくりした。二十三年の弱点が一度に露見したような心持ちであった。親でもああうまく言いあてるものではない。――三四郎はここまで来て、さらにしょげてしまった。どこの馬の骨だかわからない者に、頭の上がらないくらいどやされたような気がした。ベーコンの二十三ページに対しても、はなはだ申し訳がないくらいに感じた。どうも、ああ狼狽《ろうばい》しちゃだめだ。学問も大学生もあったものじゃない。はなはだ人格に関係してくる。もう少しはしようがあったろう。けれども相手がいつでもああ出るとすると、教育を受けた自分には、あれよりほかに受けようがないとも思われる。するとむやみに女に近づいてはならないというわけになる。なんだか意気地《いくじ》がない。非常に窮屈だ。まるで不具《かたわ》にでも生まれたようなものである。けれども……

 


 夏目漱石「三四郎」之九; 一本本来并不打算在火车上读只因为没法放进大行李内而塞进了手提包的最下面的书,尽管和其他两三本书堆在一起,却被我拈勾拈上,不幸给拈了出来。三四郎打开的是培根论文集的第二十三页,即使是培根的书他也读不进去,别说培根的书,无论什么书也没有心思读。不过,三四郎恭恭敬敬地打开着第二十三页,从头扫到尾。他坐在第二十三页前不由得回想起昨夜的事儿。那个女人究竟是怎么回事儿? 世上竟然有这样的女人:平静地,不慌不忙地进了来。她是没有教养?还是大胆?甚至天真? 关键是她走到哪一步为止呢,找不到答案。如果打起勇气来哪怕再往下一步呢?不过无法想下去。分手之际她只说了一句你这个人没有胆量的时候三四郎大吃一惊。他的心砰然了:二十三年的弱点一下子暴露出来。就连父母也不能像她这样说得一针见血吧。三四郎一想到这里更加沮丧。就像是被一个素不相识的人责骂而无法还口似的心境。就连对培根的第二十三页也极为抱憾。不对,不该狼狈到如此地步吧。这事儿和学问不干系,和大学生也不干系, 只干系到人格。总当有对应的法子吧。不过对方一直那样做的话, 我想,受过教育的我,也没有这次对应以外的法子。事到临头只好避免极端地亲近女性,多少有点儿自尊心吧。这真叫人不自在,就像生下来就有缺陷似的,不过…  (翻译:小林里香)