日中翻訳コンテスト  2020年9

              

 


2020年9月の優秀答案当選者3名: ★小林里香 田中涼子 陳康健   翻訳努力当選者4名: 藤井佳苗 江川美帆 王力偉 劉章華 

夏目漱石 「三四郎」の 8 :  勘定をして宿を出て、停車場へ着いた時、女ははじめて関西線で四日市の方へ行くのだということを三四郎に話した。三四郎の汽車はまもなく来た。時間のつごうで女は少し待ち合わせることとなった。改札場のきわまで送って来た女は、「いろいろごやっかいになりまして、……ではごきげんよう」と丁寧にお辞儀をした。三四郎は鞄と傘を片手に持ったまま、あいた手で例の古帽子を取って、ただ一言、「さよなら」と言った。女はその顔をじっとながめていた、が、やがておちついた調子で、「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言って、にやりと笑った。三四郎はプラットフォームの上へはじき出されたような心持ちがした。車の中へはいったら両方の耳がいっそうほてりだした。しばらくはじっと小さくなっていた。やがて車掌の鳴らす口笛が長い列車の果から果まで響き渡った。列車は動きだす。三四郎はそっと窓から首を出した。女はとくの昔にどこかへ行ってしまった。大きな時計ばかりが目についた。三四郎はまたそっと自分の席に帰った。乗合いはだいぶいる。けれども三四郎の挙動に注意するような者は一人もない。ただ筋向こうにすわった男が、自分の席に帰る三四郎をちょっと見た。三四郎はこの男に見られた時、なんとなくきまりが悪かった。本でも読んで気をまぎらかそうと思って、鞄をあけてみると、昨夜の西洋手拭が、上のところにぎっしり詰まっている。そいつをそばへかき寄せて、底のほうから、手にさわったやつをなんでもかまわず引き出すと、読んでもわからないベーコンの論文集が出た。ベーコンには気の毒なくらい薄っぺらな粗末な仮綴《かりとじ》である。


夏目漱石「三四郎」之八;结完账后离开旅馆,来到火车站时,女子初次张口对三四郎说自己要坐关西线的火车去四日市。三四郎要坐的火车很快要发车。由于发车时间不同,女子要在火车站等一会儿。她把三四郎送到检票口旁边说:“这次真是难为您了,……那么,就此道别了。” 一边说一边礼貌地鞠了一躬。三四郎一只手拿着皮包和雨伞,另一只手习惯地摘下那顶旧帽子,只简单说了一声再见。女子凝视了一会儿他的脸后,镇静地说道:“你这个人没有什么胆量呀。”话一说完,嫣然一笑。 三四郎的精神受到震荡,情不自禁地似乎一下子被弹到月台上一般,即使上了火车,两耳依然发热、羞愧得秽。很快,随着列车长的口哨声从车尾响到车头,火车开动了。三四郎悄悄地从车窗探出脖子看车站。女子当然早就离开了,只有站上的大钟落入眼中。三四郎静静地回到自己的座位上。车上的乘客虽有不少,不过没有谁注意到三四郎的举动。只是通道对面座位上的男子在他就坐时瞄了他一眼,哪怕这只是一刹那,他也感到难为情。看看书来分散分散心情吧,一打开包,发现昨夜用过的毛巾塞得满到皮包口。挪开毛巾后从包底,随便拿出碰到手边的一本什么书来,原来是读也读不懂的培根论文集。这是一本让培根不好意思的用既薄又粗糙的纸张印刷的简易装订本 。(翻译者: 小林里香 田中凉子)