日中翻訳コンテスト  2018年9

              

 


2018年9月の優秀答案当選者4名:芮真慧 和田あきな、劉潤發。翻訳努力当選者3名: 藤井佳苗 岡本洋子 江川美帆

「夏目漱石 夢十夜 第五夜」: こんな夢を見た。何でもよほど古い事で、神代(かみよ)に近い昔と思われるが、自分が軍(いくさ))をして運悪く敗北(まけ)たために、生擒(いけどり)になって、敵の大将の前に引き据えられた。その頃の人はみんな背が高かった。そうして、みんな長い髯を生(は)やしていた。革の帯を締めて、それへ棒のような剣を釣るしていた。弓は藤蔓(ふじづる)の太いのをそのまま用いたように見えた。漆も塗ってなければ磨《みが》きもかけてない。極めて素樸(そぼく)なものであった。敵の大将は、弓の真中を右の手で握って、その弓を草の上へ突いて、酒甕《さかがめ》を伏せたようなものの上に腰をかけていた。その顔を見ると、鼻の上で、左右の眉《まゆ》が太く接続《つなが》っている。その頃|髪剃(かみそり)と云うものは無論なかった。自分は虜だから、腰をかける訳に行かない。草の上に胡坐をかいていた。足には大きな藁沓(わらぐつ)を穿いていた。この時代の藁沓は深いものであった。立つと膝頭(ひざがしら)まで来た。その端の所は藁(わら)を少し編残(あみのこ)して、房のように下げて、歩くとばらばら動くようにして、飾りとしていた。大将は篝火(かがりび)で自分の顔を見て、死ぬか生きるかと聞いた。これはその頃の習慣で、捕虜(とりこ)にはだれでも一応はこう聞いたものである。生きると答えると降参した意味で、死ぬと云うと屈服《くっぷく》しないと云う事になる。自分は一言死ぬと答えた。大将は草の上に突いていた弓を向うへ抛げて、腰に釣るした棒のような剣をするりと抜きかけた。それへ風に靡(なび)いた篝火(かがりび)が横から吹きつけた。自分は右の手を楓のように開いて、掌(たなごころ)を大将の方へ向けて、眼の上へ差し上げた。待てと云う相図である。大将は太い剣をかちゃりと鞘に収めた。その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に一目思う女に逢いたいと云った。大将は夜が開けて鶏が鳴くまでなら待つと云った。鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺されてしまう。

 

  

(コンテスト2018年 第九回)

 


 

夏目漱石 梦十夜 第五夜】 我做了个这样的梦。梦景是很久之前的事情,久到接近天神下凡的远古时代。我的军队不运而战败,我也被生擒了,我被押送到了敌方大将前。那时的人都人高马大,还都留着长须,腰上系着皮制的腰带,腰带上挂着状似棍棒的剑。而他们背的弓看起来是用粗壮的藤蔓直接做成的,既没有涂漆,也未经打磨,极其朴素。敌军大将右手握在弓的正中间,而弓插在草地上,坐在状似倒扣在地上的酒坛子一样的东西上。看他的脸,鼻子上方左右粗壮的眉毛连在了一起。那个时代当然不会有剃须刀。我是俘虏,不能坐下,就盘腿坐在了草地上。我的脚上穿着一双大草鞋。那个时代的草鞋帮很高,站起来鞋帮高到膝盖。鞋帮顶端草的没有编完的部份像穗一般垂下来,走起来刷刷地晃动,权作装饰物。敌军大将借着篝火的亮光,看着我,问道:“你是想死,还是想活?”这是那个时代的惯例,一旦成了俘虏,谁都会被问上这么一句。回答“想活”的话就意味着投降。回答“想死”的话则意味着不肯屈服。我回答说:“想死!”大将拔出草地上的弓,向前扔了过去,然后嗖地一下拔起了挂在腰上的棍棒一样的剑。这时,篝火随风飘了过来。我把右手五指张开,掌心对着大将,举在眼睛上方——这是等一下的手势。大将把粗重的剑咔嚓一声收回了剑鞘。即使是那样的时代,恋情也是有的。我说:“在我死之前,我想见到我思恋的女人。”大将说:“我会等到天亮鸡鸣之前。”在鸡鸣之前,我思恋的女人必须叫来这里。如果鸡鸣而还没来的话,我就会被杀掉——在与她相逢之前。(翻译者:芮真慧  编者略有修改)