日中翻訳コンテスト  20168

              

 


2016年8月の優秀答案当選者5名: 熊谷鐘蘭、陳美娟、本田真一、合田雅子、宮沢玲里

太宰治「斜陽」の8」  そうして、その日、私はお庭で蛇を見た。その日は、とてもなごやかないいお天気だったので、私はお台所のお仕事をすませて、それからお庭の芝生の上に籐椅子をはこび、そこで編物を仕様と思って、籐椅子を持ってお庭に降りたら、庭石の笹のところに蛇がいた。おお、いやだ。私はただそう思っただけで、それ以上深く考える事もせず、籐椅子を持って引返して縁側にあがり、縁側に椅子を置いてそれに腰かけて編物にとりかかった。午後になって、私はお庭の隅の御堂の奥にしまってある蔵書の中から、ローランサンの画集を取り出して来ようと思って、お庭へ降りたら、芝生の上を、蛇が、ゆっくりゆっくり這っている。朝の蛇と同じだった。ほっそりした、上品な蛇だった。私は、女蛇だ、と思った。彼女は、芝生を静かに横切って野ばらの蔭まで行くと、立ちどまって首を上げ、細い焔のような舌をふるわせた。そうして、あたりを眺めるような恰好をしたが、しばらくすると、首を垂れ、いかにも物憂げにうずくまった。私はその時にも、ただ美しい蛇だ、という思いばかりが強く、やがて御堂に行って画集を持ち出し、かえりにさっきの蛇のいたところをそっと見たが、もういなかった。 夕方ちかく、お母さまと支那間でお茶をいただきながら、お庭のほうを見ていたら、石段の三段目の石のところに、けさの蛇がまたゆっくりとあらわれた。 お母さまもそれを見つけ、「あの蛇は?」 とおっしゃるなり立ち上って私のほうに走り寄り、私の手をとったまま立ちすくんでおしまいになった。そう言われて、私も、はっと思い当り、「卵の母親?」 と口に出して言ってしまった。「そう、そうよ」 お母さまのお声は、かすれていた。 私たちは手をとり合って、息をつめ、黙ってその蛇を見護った。石の上に、物憂げにうずくまっていた蛇は、よろめくようにまた動きはじめ、そうして力弱そうに石段を横切り、かきつばたのほうに這入って行った。「けさから、お庭を歩きまわっていたのよ」 と私が小声で申し上げたら、お母さまは、溜息をついてくたりと椅子に坐り込んでおしまいになって、「そうでしょう? 卵を捜しているのですよ。可哀そうに」  と沈んだ声でおっしゃった。 私は仕方なく、ふふと笑った。

「太宰治「斜陽」の8」


 

「太宰治「斜阳」之8」于是,那一天,我在院子里亲眼目睹了蛇。那天和日,触动了束厨房家到院子草坪上打毛衣的念,我拿着藤椅来到院子,发现园林石旁箭竹丛那儿有条蛇。哦、真讨厌啊。我想了想,但也没多考,搬着藤椅又回到走廊边儿,坐在走廊边儿的藤椅上坐下打毛衣。时过正午,我正想去院子角落的佛堂深书取玛丽罗兰珊画集而走进了院子,看见一条蛇在草坪上慢吞吞慢吞吞爬行着。而它就是我早上看到过的那条蛇, 它是一条纤细而且雅的蛇。我想,它一定是条母蛇。她静静地穿草坪,爬向草丛的,时而停下来,昂首,颤动着那火焰般细细的蛇信子,似乎在眺望周,持片刻,垂下十分沮地蜷着。此,我是固认为那不是条美的蛇。不久我去佛堂取了画集回来,又偷偷地看了看,那条蛇已无踪影。 近傍,我与母在中国式房喝着茶,看向院子,第三级石阶处,早上的那条蛇又缓缓地出了。 母也察到了:“是那条蛇不?”着站起身跑到我身旁,抓住我的手呆立着。母非同常的反使我恍然大悟:“蛇卵的母?”。“是啊,就是啊”母的声音得沙。 我们紧方的手,屏住呼吸,默默地注着那条蛇。无精打采地蜷在石上的蛇,又始踉、无力地穿,消失在燕子花中了。“从早上它就一直在院子里找来找去的”我小声告,母亲叹了口气,精疲力尽地坐椅子,黯然地“是吧?它是在找自己的孩子哦,好可怜”。我只能尬地“嘿嘿”笑了笑。(翻译:熊谷锺兰 凌焱)