日中翻訳コンテスト  20145

              


「舞姫の: 今までは瑣々(さゝ)たる問題にも、極めて丁寧にいらへしつる余が、この頃より官長に寄する文には連(しき)りに法制の細目に拘(かゝづら)ふべきにあらぬを論じて、一たび法の精神をだに得たらんには、紛々たる万事は破竹の如(こと)くなるべしなどゝ広言しつ。又大学にては法科の講筵を余所(よそ)にして、歴史文学に心を寄せ、漸く(やうやく)蔗(しよ)を嚼(か)む境に入りぬ。官長はもと心のまゝに用ゐるべき器械をこそ作らんとしたりけめ。独立の思想を懐(いだ)きて、人なみならぬ面(おも)もちしたる男をいかでか喜ぶべき。危きは余が当時の地位なりけり。されどこれのみにては、なほ我地位を覆(くつが)へすに足らざりけんを、日比(ひごろ)伯林(ベルリン)の留学生の中(うち)にて、或る勢力ある一群(ひとむれ)と余との間に、面白からぬ関係ありて、彼人々は余を猜疑(さいぎ)し、又遂(つひ)に余を讒誣(ざんぶ)するに至りぬ。されどこれとても其故なくてやは。彼人々は余が倶(とも)に麦酒(ビイル)の杯をも挙げず、球突きの棒(キユウ)をも取らぬを、かたくななる心と慾を制する力とに帰して、且(かつ)は嘲(あざけ)り且は嫉(ねた)みたりけん。 

 

(森鴎外  舞姫 第7回)

 


2014年5月の優秀答案当選者4名: 伊藤佐和子、凌炎、劉艶美、田中美恵子、太田貞子 

 

訳文:《舞姬之七》: 在这以前,不管多么琐细的问题我都极为仔细地回复。但是从这个时期起,给长官送去的文件中,我连连论述自己的观点提出凡是不需要仔细斟酌的细则,则不需要拘泥,大话声言「一旦贯彻立法精神万事之解决势如破竹」。把大学的法科课也当成耳边风而倾心于历史文学,并且达到渐入佳境的境界。长官本来想把我培养成一个可以随心如意地使用的机器人。怎么能喜欢一个持有独立思想并且举止谈吐与众不同的男子呢?当时,我的地位面临危机。然而,只靠此事还不够拆我的台。在柏林的留学生中,一群有势力的团伙和我平常就有不愉快的关系。他们经常猜忌我,甚至到了用谗言诬陷我的地步。不过这并不一定没有原因。我不和他们一块儿干杯啤酒,也不和他们玩棒球,此外还要归结于我的一颗顽固的心和抑制欲望的忍耐力,这一切致使了他们嘲弄我,嫉妒我。(森欧外 舞姬 第七回  翻译者: 伊藤佐和子 凌焱)