2014年2月の優秀答案当選者5名: ★凌炎、★伊藤佐和子、劉婉珍、福井信一、伊藤幸子
「舞姫の4」:菩提樹下と訳するときは、幽静なる境(さかひ)なるべく思はるれど、この大道髪の如(ごと)きウンテル・デン・リンデンに来て両辺なる石だたみの人道を行く隊々(くみぐみ)の士女を見よ。胸張り肩聳(そび)えたる士官の、まだ維廉(ヰルヘルム)一世の街に臨めるに倚(よ)りたまふころなりければ、様々の色に飾り成したる礼装をなしたる、妍(かほよ)き少女(をとめ)の巴里(パリー)まねびの粧(よそほ)ひしたる、彼も此も目を驚かさぬはなきに、車道の土瀝青(アスファルト)の上を音もせで走るいろいろの馬車、雲に聳(そび)ゆる楼閣の少しとぎれたる処(ところ)には、晴れたる空に夕立の音を聞かせて漲(みなぎ)り落つる噴井(ふきゐ)の水、遠く望めばブランデンブルク門を隔てゝ緑樹枝をさし交(か)はしたる中より、半天に浮び出でたる凱旋塔の神女の像、この許多(あまた)の景物目睫(もくせふ)の間に聚(あつ)まりたれば、始めてここに来(こ)しものの応接に遑(いとま)なきも宜(うべ)なり。されど我胸には縦(たと)ひいかなる境に遊びても、あだなる美観に心をば動さじの誓ありて、つねに我を襲ふ外物を遮(さへぎ)り留めたりき。。(森鴎外
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