2009年4月の優秀答案当選者5名:★施栄濤(埼玉県志木市)、山元真由美(岩手県気仙沼市)、永田博美(東京都武蔵野市)、瀧川裕美(東京都杉並区)、山下和美(愛知県一宮市木曽川町) 「先生と私」の19: もしKがその人であったなら、私は恐らく彼の前に赤面したでしょう。ただKは私をたしなめるにはあまりに正直でした。あまりに単純でした。あまりに人格が善良だったのです。眼のくらんだ私は、そこに敬意を払うことを忘れて、かえってそこにつけ込んだのです。そこを利用して彼を打ち倒そうとしたのです。
Kはしばらくして、私の名を呼んで私の方を見ました。今度は私のほうで自然と足をとめました。するとKもとまりました。私はその時やっとKの眼を真向きに見ることができたのです。Kは私より背の高い男でしたから、私はいきおい彼の顔を見上げるようにしなければなりません。私はそうした態度で、狼のごとき心を罪のない羊に向けたのです。
「もうその話はやめよう。」 と彼が言いました。彼の眼にも彼の言葉にも変に悲痛なところがありました。私はちょっと挨拶ができなかったのです。するとKは、「やめてくれ。」 と今度は頼むように言い直しました。私はその時彼に向かって残酷な答えを与えたのです。狼が隙を見て羊の咽喉笛へ食らいつくように。
「やめてくれって、僕が言い出したことじゃない、もともと君のほうから持ち出した話じゃないか。しかし君がやめたければ、やめてもいいが、ただ口の先でやめたってしかたがあるまい。(夏目漱石 続く) 訳文:《老师和我之十九》:倘若K就是那个在我耳边轻语的人,我恐怕在他面前脸红了吧!不过,在要告戒我这事上,K老实得过头了,单纯得过头了,人格善良得过头了。欲令智昏的我,不但没有对此抱以敬意,反而趁虚而入。我决定利用这一点来击败他。过了一会儿,K叫着我的名字朝我看来。这一次是我不由得地停下了脚步。接着,K也站住了。这时候,我终于能直盯着K的眼睛了。因为K是一个比我高的男子,自然而然地,我不得不仰视他的脸庞。我用这种态度,以豺狼般的心思面对着一头无罪的羔羊。“再也不要说这事了”,他说道。他的眼中、他的话里都有着异常的痛楚。我一时没能回话。于是K又求我似地改口说:“你别说了。”那时,我给了他一个残酷的回答,就象狼瞅准空子咬向羊的喉管似的。“什么你说别说了?又不是我提起的,原本就是你先说起来的吧?不过,如果你想停下来不说的话停下来也好,但只在嘴巴上停下来有什么用?”(夏目漱石 未完待续)(翻译者 施荣涛) |